輝くライフスタイルを応援する

No.139 Spring.2020

お客さんの笑い声が最高のエネルギー源です

タレント・女優

久本 雅美さん

劇団東京ヴォードヴィルショーを経て、柴田理恵、喰始たべはじめらとワハハ本舗を旗揚げ。
「マチャミ」こと久本雅美さんは、時に過激ともいえる独特の芸風とパフォーマンスで、お笑いの世界を疾走し続けてきた。
一昨年に還暦を迎え、新たな人生の節目を迎えた久本さん。
笑いにかける思いと、無尽蔵のエネルギーの秘密について、稀代のコメディエンヌに話を伺った。

取材・文/吉田燿子 撮影/齋藤久夫
スタイリスト/前田みのる メイク/白井ユリ


笑いの原点となったワハハ本舗時代

――お笑いの本場・大阪で生まれ、子供の頃から「人を笑わせる」のが大好き。2人の祖父から、笑いと役者の遺伝子を受け継いだ。

NHK『ファミリーヒストリー』に出演した時、祖父が父方・母方ともに村芝居の女形だったことがわかったんです。そのDNAを受け継いだせいか、皆を笑わせるのが大好きで……。ドリフターズの影響もあって、小学校高学年の頃には、自分でコントを書くようになりました。友達を集めて練習しては、先生や生徒の前で披露していましたね。明るくって、クラスの中でも「面白い」といわれる存在でした。
そんな私を見ていて、母も「この子は、普通の就職はできない」と思ったんでしょう。「自分の個性を生かす道を見つけなさい」と言われ、短大時代は話し方教室にも通いました。当時はラジオのディスクジョッキー全盛時代。お喋りで、人に元気を与えるような仕事がしたいと思っていました。
その話し方教室である女の子と親しくなったのですが、「2人で漫才でもやってみる?」と言って、吉本興業主催のお笑い演芸大会に出てみたんです。優勝賞品のシンガポール旅行に惹かれまして……
そうしたら、なんと優勝しちゃったんですよ。でも、まさかその時は、自分がプロになるとは思わなかったですね。
その友人が東京で舞台女優を目指すというので、私も一緒に東京に遊びに行きました。その時、当時一番人気があった佐藤B作さん率いるお笑いの劇団、東京ヴォードヴィルショーの公演を、たまたま見に行ったんです。そうしたら、すごく感動しちゃったんですよ! お芝居で見せるお笑いの、あまりの面白さに衝撃を受けて、「私も舞台に立って〝笑ってもらえる側〟になりたい」と思いました。その場で「この劇団に入る!」と心に決め、22歳の時入団したんです。


――人生の一大転機となる出来事が起こったのは、3年後のことだった。柴田理恵、佐藤正宏ら仲間5人と一緒に東京ヴォードヴィルショーからスピンアウト。ワハハ本舗を旗揚げしたのだ。

東京ヴォードヴィルショーでは、本当にたくさんのことを教えてもらいました。でも、私のようなペーペーが舞台に出られるのは、1回の公演につき数分程度。劇団自体も〝演劇志向〟が強くなり、「とにかく笑いの芝居をやりたい」という若手との間でギャップが生まれたんです。それで、「新しい劇団を作ろう」ということになり、若手5人と放送作家の喰始さんとで、ワハハ本舗を立ち上げました。
喰始さんは、『巨泉×前武ゲバゲバ90分!』や『カリキュラマシーン』という伝説の番組でコントを書いた天才放送作家。独特のシュールな笑いの世界観を持つ一匹狼の喰さんを、私たちは引き抜いたわけです。 その時、喰さんがこう言ったんですね。「これからの時代、役者には作家性がないといけない。だから僕、台本は書きません」「おいおい、ちょっと待てよ、放送作家だろ」って(笑)。喰さんは舞台全体のコンセプトだけを決めて、「このシーンはどうすれば面白いか、自分たちで考えろ」と言うんです。それで、あーでもないこーでもないと皆でワイワイやりながら、喰さん監修の下で台本を作り上げていくわけなんです。
自分たちが面白いと思うことって何だろう、お客さんはどうすれば喜んでくれるのか――自問自答しながら舞台を作り、その結果がライブで眼前に叩きつけられる。この経験は、テレビの仕事をするようになってから、本当に役立ちましたね。テレビの世界って、瞬発力の勝負じゃないですか。ワハハ本舗の舞台で培った柔軟性やネタの引き出し、台本作りで磨いた作家性とその全てが、テレビという場で生かされたわけです。

還暦なんて、まだまだ若造。60代でもっと深く吸収したら、80代は面白いだろうな、と。

「生涯現役」でいたいから
健康な体を作りたい

――85年、タモリが司会を務める人気番組『今夜は最高!』(日本テレビ)のレギュラー出演者に。下ネタ全開のはじけた芸風が人気を呼び、久本さんは一躍、テレビ界の寵児となった。

自分では「下ネタを売り物にした」つもりは1ミリもないんです。ワハハ本舗自体が下ネタオッケーで、「何でも笑いに変えていけばいい」という劇団でしたから。自分の笑いの表現の一つが、たまたまそういうスタイルだっただけなんです。
ただ、「女のくせに」とか「女を忘れてる」とか、ずいぶん批判もされました。「生理的にダメ」とか言われると、駆け出しの頃は落ち込みますよね。でも、そのぐらい強烈だったんでしょうね。それが私の「個性」だと周りが認めてくれるまでは、ひたすら誠実に仕事をしていくしかない。ふてくされたって、マイナスのオーラしか出ませんから。
例えばレポーターの仕事なら、相手が気持ちよく話せるような雰囲気を作り、その人のいいところを引き出す。司会の仕事なら、自分が聞き手に回って相手を生かし、自分も面白いことを言わせてもらう。自分からのNGはないですしね(笑)。バラエティの仕事なら、何を要求されてもイヤとは言わず、体当たりでぶつかっていく。その積み重ねでしたね。
「久本を使ってよかった」と言われたいし、「なくてはならない存在」になりたい。そう思ってマインドを強くし、自分の人間性を磨いていくしかなかったですから。

myレシピ

――芸歴39年を経て、一昨年、還暦を迎えた久本さん。人生の新たな節目を迎えた心境とは。

還暦を過ぎて、健康は大事だなと思うようになりました。若い時みたいに「酒を飲んでるときに、水なんか飲めるか!」「朝まで飲むぞ!」なんて無理。健康第一、体が資本、というのは痛切に感じますよね。
60代手前の頃は疲れ気味で、「これ以上エネルギーがもつだろうか。そろそろゆっくりしてもいいのかな」という考えが、一瞬、よぎったこともありました。でも、還暦を過ぎてみれば、今年は元旦から舞台をこなし、5月にはワハハ本舗の全体公演、10月には藤原紀香さんとダブル主演の舞台もある。なんか「やれるじゃん!」みたいな(笑)。これがまた、自信につながっていくんじゃないかなぁ、と思いますね。
「生涯現役」でいたいから、週1回トレーニングで体調を整え、ケガをしない体作りを心がけています。休日もボーっとしているのが嫌いで、「この人に会って、あそこに行って、あの舞台を見て」と、予定を詰め込んでしまいます。じっとしてられないんですよね。それが栄養になって、エネルギーをもらえますから。
それに、どんなに疲れていても、舞台でお客さんが笑ってくれると、めっちゃ元気になれる。お客さんの笑い声や笑顔が、私にとっては最高のエネルギーの素なんです。つくづく、不思議だなぁ、と思いますね。
これからも舞台に立ち続けたいし、皆さんの前に立って何かを発信していけるような自分であり続けたい。先輩たちはガンガン輝いていますから、私なんかまだまだ若造ですよね。だから60代は暴れたいな、と思っています。今まで積み重ねてきた経験が咀嚼され、自分の中から出てくるものが増えたわけですから。60代でもう一段深く吸収したら、80代は面白いだろうな、と思うんですね。
今年5月から、ワハハ本舗の全体公演『王と花魁』が始まります。ワハハ本舗の全体公演は3年ぶり。日本の伝統的な和をテイストにしたパフォーマンスを、WAHAHAワールドで楽しんでいただければと思います。歌あり、ダンスあり、笑いあり――きっと、今まで見たことのない世界が、そこにあると思います。

Profile

前回公演から3年ぶりとなる、ファン待望のWAHAHA 本舗全体公演『王と花魁』。日本の伝統芸能を題材にした抱腹絶倒のエンターテインメントショーだ。


日時:2020年5月27~31日
場所:なかのZERO大ホール。
5月~7月、全国18カ所で開催。

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